【開催報告】ABPI研「発酵プロセス分科会」第2回定例会 2024年11月11日開催のご報告
2024年11月30日
NPO法人日本フォトニクス協議会JPC関西
アグリバイオフォトニクス産業化研究会(ABPI研)
ABPI研発酵プロセス分科会第2回定例会
(JPC関西会員限定公開「勉強会」)開催報告
■開催日(時間):2024年11月11日(14:30~17:00)
■場所:I-siteなんば
今回の参加者は講演者が3名、発酵プロセス分科会メンバーから5名とJPC関西会員1名、関係者5名で合計14名でありました。第一回の定例会ではテーマを「日本酒づくり」に限定しての勉強会を検討することになりました。今回はその現場レベルにおいての現状を把握し、当分科会の取り組みに関して、分科会メンバーには今回の勉強会の内容を十分参考にして今後の分科会の方向性を展望し、新たなフォトニクス研究の具体的な課題を導き出していただけるように真に期待するものであります。
▲勉強会の様子
以下に勉強会の詳細を報告申し上げます。
1.発酵プロセスとフォトニクスセンシング~日本酒~
菊正宗酒造株式会社総合研究所所長 高橋俊成 先生
【講演要旨】
酒造りは杜氏の勘と経験が重要であると考えられていますが、清酒業界では、様々な分析技術を駆使して、品質の向上と安定化に取り組んでおられ、さらに酒造りは複雑かつ多くの工程から構成されるとのこと。プロセスとして原料の米や水の分析に始まり、蒸米の澱粉の糖化を担う米麹や、アルコール発酵を担う酵母を培養する工程の分析は迅速性が要求される。米麹と酵母が 揃って初めて醪という酒造りの最終工程に入るため、仕込みまでに全ての情報を得る必要があり、最終工程の醪においては、設計通りの酒質に仕上げるための試行錯誤がおこなわれている。これまでに同社で導入されている分析技術に加え、今後に向けて取り組みを始めた技術についても今回特別に説明があった。
2.固体培養について~新たな産業創出の可能性~
国立大学法人 岡山大学学術研究院 環境生命自然科学学域(農学系)
微生物インダストリー寄付講座 特任助教 原 唯史 先生
【講演要旨】
固体培養とは、固体状の原料を用いて微生物を培養し、発酵を行う技術ですが、この方法は、日本の醸造文化の中で発展した独自の技術として位置づけられています。発表では、固体培養の液体培養に対する優位性、麹菌を用いた固体培養技術の特性、産業応用に向けたスケールアップと固体培養装置の開発、さらにこの技術を活用した新たな産業創出の可能性についての説明がありました。
3.講評として~麹菌(糸状菌)の固体培養についての技術開発と事業化~
国立大学法人 岡山大学学術研究院 環境生命自然科学学域(農学系)
微生物インダストリー寄付講座特任教授 神崎 浩先生
【講評の概要】
講評という形を取りましたが、神崎先生には岡山大学 環境生命自然科学学域の微生物インダストリー講座の概要を紹介いただきました。
日本酒の酒造りでは麹造りが重要な要素であり、麹菌による澱粉の分解酵素の発現において本来の自然な「固体培養」が大変重要とされています。前段の原先生の講演2で説明された「固体培養」による麹作りの科学的な研究と生産システムの確立、また、当該事業の将来性についての説明、さらに日本独自の技術である麹菌の安全な製造技術と様々な生活活性物質の生産など、フードテックビジネスの広がりについても説明がありました。また、麹菌の光応答研究などを含め、遺伝子レベルで特異性の分析など、最先端技術の取り組みや、生産技術まで及ぶ光技術の可能性についても説明がありました。
さらに神崎先生からは「「固体培養」の社会実装チャレンジ~麹の有用性と未来像~」というタイトルで、先ごろ岡山で実施されたシンポジウムの紹介をいただきました。
シンポジウムの内容は培養技術に特化したもので、日本酒に特化した内容ではなかったのですが、装置メーカであるフジワラテクノアート社などの大きな支援を受け、岡山大学と岡山工業技術センターなどや関連企業などとコンソーシアムを立ち上げ、社会実装に注力されていることなどが紹介されたものでした。その中では文字通り「固体培養」による麹作りの技術開発が中心の内容でありました。シンポジウムで得られた情報は今回の2講演の内容を含めて、発酵プロセス分科会の取り組みの今後の方向性として未来像を見出せるヒントとして参考にしたいと思います。
4.ディスカッション
光技術に対する課題などは、菊正宗の高橋様からは主に分析技術の新規な開発ニーズがあることが示唆された。また、社会実装の段階ではあるが、「固体培養」などの培養技術では麹によって産生される酵素の遺伝子発現などの分析技術などはすでに取り組みが進んでいる一方で、酵素の発現制御などの分科会での取り組みに発展する課題として光による生産性改善、安全な麹の開発などに光がどのように関与できるかなど、今後導き出すことが出来るかどうかであると考えられます。
▲ディスカッションの様子
5.まとめ
今回の勉強会では、狭い範囲ではありましたが、日本醸造学会や岡山大学のおける微生物インダストリー寄付講座の取り組みなど「発酵プロセス」とからむ学術的な取り組みについての新しい情報、存在などを知ることができました。次回に向けて、参加メンバーからの意見など、取りまとめを行い、次回以降の課題の検討を至急に行う必要があると思います。
以上
JPC関西ABPI研
発酵プロセス分科会
事務担当 石場義久